梅花茶會 〜その3【裏咄】〜

 
 
★水琴窟
 
茶会終わって日が暮れると、お客たちはあっさり散会しておりました。
 
ぽてぽてと園内を歩くと水琴窟があり、園のおじさんがこっちこっちと手招き。
水琴窟フェチな自分、わっほーいと近づいて聞き竹をもらおうとすると、
おっちゃん、竹を構えてえい、とチャンバラしてきたので、おう、と真剣白刃取り。
 
おい、何だこの人は。
 
おー、いいノリだねー。
人生ノってナンボっすよ。
 
にやりと微笑み合うなど、をかし。
 
・・・・・・・・・
 
★★みんげいそた
 
抹茶席を辞する時、去りがたくてぐずぐずしてると、
ふいに目に留まった茶碗をしまう、木箱。
墨跡鮮やかに「ウォーレン・マッケンジー」の名が。
 
え?
外人さん?
そして何かえらい達筆なんですけど。ヘタ字の自分、完敗なんですけど。
楽しいもの満載のお茶室に何かまたオモシロいものがあるのぅ、と、じいっと見てると、
目黒さんが、教えてくださったこと。
 
ミネソタに住んでるアメリカ人の陶芸家、ウォーレン・マッケンジー
ご縁あって茶碗が借りられたこと、でも、今回は出さなかったこと。
ミネソタにおける民芸、「ミンゲイソタ」を唱い、制作を続けていること。
 
ふい、と奥からその茶碗を出してくださいました。
 
志野焼ですか?
彼の地の土で焼いてますからね、ミンゲイソタなのですよ。
 
ぽってりとしたその茶碗は少女のようでした。
 
志野焼であればうっすらと肌にさすはかない紅がはにかむ少女の初々しさを魅せてきます。
が、この茶碗は。
紅というよりサーモンピンク、ほっぺピカピカにしたブロンドの農家の娘が、
畑の中からこっちにむかってブンブン手を振ってくるような。
すっこーん、と突き抜けた笑顔がありました。
 
イイモン見ました、ほくほく。
 
そして、良品を手に入れながら、あえて出さないその律する心に、
主宰の先生お二人がどれほどに見えないところまでお心を使ってくださったのか、
ちょこっとだけ伺えたような気がしました。
 
・・・・・・・・・・・
★★★梅に柳
 
健康のためには階段を、と言う方もいれば、
なにがなんでもエスカレーターを探すワタシのような者もいる。
 
それなのに。
 
なにを血迷ったか梅園を巡る階段を、登ってしまった。
入園料100円のモトを取り尽くそうという貧しさの極みです、ええ。
 
オトナの階段のぼるキミはまだシンデレラさ?
 
いや、気分はあれだ。
 
茶をのんで草はやしたり、左右の梅をぼっと眺めたり。
えっちらおっちら左右に大きく揺れながら歩くその姿は、
 
トトロ。
 
何かもうやけになって「トットロー、トットーロー」と歌いながら階段を、
白加賀なる梅を見てはふと空母加賀はこっからとったのかなあとか思いながら進んでいきました。
 
上り詰めたてっぺんから見えた光景は、普通の町の普通の夕暮れ。
スタイリッシュでもない、 インテリジェンス化されているわけでもない。
 
町工場や一軒家や、バスや自転車や。
夕餉の支度のかおりがしてきそうな。
 
そんな普通のまっただ中にある梅園で、梅たちは人の暮らしを見ているんだなあ。
人が生きたり死んだりしていくのを見ているんだろうなあ。
 
と、感傷にふけっていたのはほかでもない、ただの現実逃避でございました。
 
のぼったら、おりなくちゃいけないのです。そして、階段は降りる方がキビシいのです。
 
ちょっとまぢカンペンして、これ冗談じゃなくて落ちる。
あのおぢーさんやおばーさんたち、なんであんなにすいすい登り降りしとったんやねん。
自然石を積み上げた階段はさあ、すってんころりんなさいとばかりに攻めて来るんで、
いよいよ降りる格好はトトロそのもの。
 
いっそお尻ついて降りようかとおもったその瞬間、
 
今まさに引き上げんとする亭主陣が眼下におられた。
 
ここですっころんだらマヂでヤパイ。
 
にこやかに、撤収も素早いでしょう?とお声かけ下さる目黒氏に、
笑顔捏造100%で「まあ、忍びの血筋でいらっしゃいますか」などとピントのはずれたことを抜かしつつ、
ここからどうやって美しく階段を降りればいいのか背中に流れる滝の汗。
進退窮まったところ、書院の方角から天の声が。
 
「先生、中国茶の方が、梅と柳をお持ちになりますか、って。」と。
それを受けた目黒氏、一礼の後、そちらへ行かれました。
 
。。。。。
 
梅と柳と、ナオコ先生に助けられました。
 
日本のお茶と中国のお茶の間を、梅と柳が行ったり来たり。
そういえば両方とも飛ぶことに縁の深い木だなあ、と思いました。
飛梅、柳絮。
ふわりふわりといろんな垣根を超えていければ、いいなあ。
そのきっかけにお茶はなれるのだろうなあ。
 
しかし。
取り合えず目の前のあと数段を無事におりることが目下のミッション。
にわかトトロは再びえっちらおっちらと階段に立ち向かうのでした。
 
ちゃんちゃん。